意味あるリズム、意味あるビート
2009-08-17


「私はリズム感が悪くて・・・」という声を聴く。
あるパターン、組み合わせといった「枠」でリズムをとらえようとすると、単なる知識としてしか見えてこない。複雑なパターンとなるとそれを覚えることに躍起になってしまい、リズムを身体表現することから離れていってしまう。

今回の公演で私が意図したいことは、こういった現実問題へのひとつの提案である。
メトロノームによって私たちは様々なテンポを速やかに確認することができる。1秒はテンポ6 0。1分間に6 0回転するという意味である。では1分間はというと、1秒が6 0回とか、1時間に6 0回転するうちの1 つ、などという言い方になる。つまりは相対的な尺度に過ぎず、これではテンポ60それ自体の速さが何なのかを絶対的に説明してはいない。

動いているメトロノームをじっと睨みつけ、自分の演奏をそれに追随させきることが正確なテンポの表現といえるのだろうか? 言い換えて、他者のリズムに正確に合わせることが良いリズム感なのだろうか?
テンポ6 0= 1秒このテンポ6 0を身体に覚え込ませるだけで、様々なテンポを自分で作り出すことができる。
60× 2= 120
× 3= 180
× 4= 240
× 5= 300
× 6= 360
× 7= 420
× 8= 480
× 9= 540
× 10= 600
まずテンポ60で円周を指で空中に描く。
その2倍の速さで円周をつくるとテンポ6 0の中に2回転がとれる。この1回転分がテンポ1 2 0である。イチ、ニと声に出してカウントもしてみる。ひとつひとつをハッキリと!
ここで注意して頂きたいのは、あくまで「2倍」の感覚であり、半分に割るという感覚とは異なる。より言えばイチ、二でもなく、イチ、イチといった感じで。文字通りイチイチ云うのである。
カウントを何か言葉に換えてみる。60の中で「タケウチ」を唱えればテンポ2 4 0がつかめる。タケウチマサヤにすれば420である。
このように言葉や「ドレミファソラシ( これで7 つ)」など一文字単位で唱えれば、数字でやるよりも正確で楽である。ハッキリした日本語の誕生!

今度はこのようにして出したテンポから任意の長さを採ってみる。
先程のテンポ120を解説すると、テンポ12 0は6 0と1 : 2 の関係だから、テンポ60から2回転出してそのうちの1回転分が120になる。これはマーチのテンポ。テンポ90は60と2 : 3 の関係だから、テンポ60から3回転出してそのうち2回転分を採る。ドレミ・ドレミ・ドレミ〜 と唱えながら同じ速さのままドレ・ドレ・ドレに言い換える。
テンポ80は3 : 4 。4 回転だして3回転分とる。
ドレミファ・ドレミファ・ドレミファ〜 → ドレミ・ドレミ・ドレミ
テンポ100は? 70は? 40は? やってみてください。

このようにして得たテンポをもとに、好きな歌を歌ってみてください。今までと違う感覚がありませんか? 拍子に回転感覚のある、生きた音楽のはじまりです。大きなリズムを曖昧にしなければ、同時に小さなリズムも蔑ろにしない、一つ一つのリズムに意味が出てきます。
テンポ6 0= 1秒がもともとは地球の自転のリズムから生まれたことを考えれば( 実際にはズレがあるのがまた興味深い)、テンポとは大自然の息吹ということができる。

私たちはそれを音楽のビートとして微分・積分して利用している訳である。
こうしてくると、我々が接しているテンポとは、宇宙の大きなリズムの中から見い出された、言わば小さな宇宙のリズムと見ることができるのではないか。自分でテンポを作り出すということは、私的な行為でありながらも、公的な現象であり、他のあらゆるテンポとも調和する。これは音楽が私達に教えてくれる最高の啓示の一つではありませんか!

竹内将也(パーカッション)

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